夢の果てに(コロッケ&フォンドヴォー)



突如として訪れた雨が野原の草花を打ち、人の気配を旅人の行き交う道から追いやっていく。
「うへぇー、びしょぬれだ。ねえフォンドヴォー、この雨すぐにやむ?」
「多分通り雨だとは思うんだが。こんな雲が立て続けに来るようだと、ここでしばらく足止めだな」
「えー、そうなのか。仕方ないよね、雨がどっか行くまではここでひとやすみだ。な、メンチ」
「ぷぐぃっ」
なんのかんの言いつつもそう状況を案じてはいないらしいコロッケが、雨宿りのための大木にころりと背をもたせかけた。彼がしたのと同じように、コロッケのヘッドギアに乗っているメンチも身体をくつろげた。
「……ん?」
そのコロッケがきょとんとした顔になると、ヘッドギアを触り始めた。
「んん、ん~~?」
「どうした、コロッケ」
フォンドヴォーの問いかけに、コロッケはどこか具合の悪そうな顔をしてヘッドギアを触り続ける。
「メンチ、ちょっと降りて」
「ぷぎぷぃ?」
「んー、んんん~~~!」
すぽっ!
愛用のヘッドギアが大きな音と共に外れ、コロッケがふう、と息を吐いた。
「ようやく取れたっ。なんかきつくてさ、変な感じだったんだ~」
「雨で濡れたから髪が張り付いたんだろう」
「ううん、最近よくこうなるんだよ。かぶり心地が変なんだ、どうしてだろ?」
コロッケの説明に、つぎはぎのヘッドギアを手にしていたフォンドヴォーがああ、と呟いた。
「コロッケ、お前自身が成長して頭が大きくなってきてるんだ。だからこのヘッドギアのサイズが合わなくなってきたんだ、きっと」
「え、そうなの?じゃあ、もうこれ使えないの?」
「いや、修理してもらえばまだ大丈夫だろう。ずっとつぎはぎのままだったしな、次の街に着いたら武器屋を探そうか。ちゃんと直してもらった方がいい」
「そっかー。じゃ、直してもらお!そうすればまだ使えるんだもんな、な!メンチ!」
「ぷっぎーぃ」
「じゃ、それまでこれは俺が預かっておくぞ」
コロッケのヘッドギアを棺桶にしまおうとして、フォンドヴォーがふと手を止めた。
ビシソワーズ一家との戦いでボロボロになったヘッドギア。それをコロッケが再びかぶり、バーグと共に旅をするようになってからもう一年以上が経っていた。それだけの月日が経てば成長期の子供は背も大きくなるし力も強くなる。事細かな身長や体重を書き留めてはいないけれど、こんな所でコロッケの成長を確かめられたのが兄貴分としては少し嬉しくて、フォンドヴォーの口元が自然と笑った。
「全く。これは親の役目ですよ、師匠」
肝心の父親・バーグは先に立ち寄った村で盛大な歓迎を受けたついでに、村の近辺の盗賊や悪のバンカーを退治する仕事を引き受けてしまった。しばらく村から動けないバーグはコロッケとメンチ、フォンドヴォーに先に行っていろと言い残し、悪党退治に出かけていったのだった。
「そうだな。大きくなったよな、コロッケ。髪も伸びたしな」
雨に濡れてしっとりとしたコロッケの髪を撫でるフォンドヴォーに、コロッケはいつも通りの笑顔で屈託なく笑う。
「へへ、そうだよなー。なんか最近髪しばるの大変だなーって思ってたんだ」
「じゃあ床屋も追加だな。あと、歯医者も。最近行ってないから虫歯がないか調べてもらおう」
「えええ、オレ歯医者さんやだよ!ぎゅいーんってするの痛いじゃん!」
「何言ってるんだ、ちゃんと診てもらっておかないとますます酷くなって本当にぎゅいーんだぞ?世界一のバンカーの息子がそんな弱音吐くんじゃない」
「え~~~~、ヤだよ~~~!助けてメンチ~~!」
「ぷぎぷっぎーぃ」
「ははは、メンチもちゃんと歯医者に行っておけって言ってるぞ」
「ひで~~~~!!」
ちょっとした大人の意地悪でコロッケを怖がらせつつ、フォンドヴォーはふう、と溜め息を吐いた。
ふと立ち止まった瞬間にコロッケの成長を実感する。自分がずっとバーグの背中を追いかけていた時間のように、毎日の繰り返しは歩み続けるバンカー達を少しずつ、少しずつ強くしていく。そしていつかは、コロッケも大人になる日が来る。
その時、この世界はどんな風になっているのだろう。
「戦う必要はないにこした事ないんだがな」
何せ、この惑星の外からさえ敵がやってくるご時勢だ。未来は明るいなんて容易には口に出来ないのかもしれない。出来るならこの世界を支える子供達に平和な未来を手渡してやりたいが、世界はそうそう簡単に良くはならない。リゾットもグランシェフの王として東奔西走しているはずだが、国家間には国家間でなかなか難しい問題もあるようだ。
「あ、雨、弱くなってきた」
コロッケの声に顔を上げると、音を立てるほどの強さで木の葉を打っていた雨は次第に細いものになってきていた。しばらく待てば晴れ間が覗いて、また先に進む事が出来るだろう。
「なあ、コロッケ」
「ん?」
不意に名前を呼ばれて振り向いたコロッケに、フォンドヴォーは尋ねた。
「お前は、この先どうしたい?どうなりたい?」
尋ねておきながら、酷く抽象的な質問かもしれないな、とフォンドヴォーは思った。
「うーん?どうなりたい…どうなる…??」
腕を組み、首を傾げながらコロッケが眉根に皺を寄せた。彼なりに尋ねられた事の答えを導き出そうとしているようだ。
「いや、すまない、変な事を聞いた。まだお前には早かったな」
「うんとね、オレね」
無理な質問をした、と苦笑いを返したフォンドヴォーにコロッケが言った。
「もっと強くなりたいな。父さんくらいに。んで、またフォンドヴォーやメンチやみんなと一緒にいろんなとこ旅して、強いバンカーと戦うんだ!」
「今までと同じか。これからも変わらないんだな、コロッケは!」
「うん!だって、毎日すげー楽しいから!これからも楽しいといいなって!」
楽しい毎日を、これからも変わらずに。
はっと目を見開いたフォンドヴォーの横でコロッケが立ち上がり、雨宿りしていた木の外へ駆け出した。
「雨やんだー!…お、おお!?見てよフォンドヴォー、虹!すげー虹だぜ~~!!」
「ぷいぷいー、ぷっぎー!」
光のいたずらで空に現れた虹に小さな手を伸ばしながら、雨で濡れたままの地面をコロッケが駆け回る。その後ろをメンチが転がるようについて回った。
「あいつには敵わないな」
バーグと同じで、何もかもを楽しむ達人であるコロッケ。彼にとっての世界の全ては楽しい事に満ちていて、この世界にバーグや仲間達がいる限り、それが終わる事はないのだろう。
「楽しい事を楽しむ…か。そうだな、俺もそうしよう」
雨雲が過ぎ去ったように、今日と同じ明日はまた流れ流れてやってくる。毎日の繰り返しを楽しんでゆければ、山も谷も難なく越えていけるはずだ。
「よし!日が暮れるまでに次の街に行くぞ!」
「お~~~~っ!!」
「ぷっぎーぃ!」
手の中の幸せを握り締めて、彼らは今日も、そして明日も道を行く。
今以上のしあわせを信じて、今以上の自分自身を探して。


END