北夢-DREAM OF THE NORTH-(コロッケ一家クリスマスネタ2006)

「えやーっ!」
勢いよく繰り出される蹴り。その直撃を食らってしなった街灯から、積もっていた新雪がどさりどさりと落ちてくる。
「おいおい、街の物を壊すんじゃないぞ、コロッケ」
街を真っ白に染めて行く雪に大はしゃぎするコロッケの後ろでフォンドヴォーが小さく溜め息を吐いた。
「大丈夫だよ!ちゃんと手加減してやってるからさ。な、メンチ」
「ぷぎー」
一歩間違えば公共物破損になる行為をコロッケが止める様子はなく、あちこちにある街灯に蹴りを入れては落ちてくる雪を避けて笑っている。いよいよ街灯がひしゃげそうになったら止めに入るか、と考えながらフォンドヴォーはコロッケの後を追いながら歩く。
目的地もなく北へ北へと旅を続けて辿りついた雪の街をゆく人々の足取りは忙しない。年の瀬が近づくこの時期独特の街の空気は、戦いが終わった今だからこそようやく肌で感じられるものかもしれない。幸せそうに手を繋いで歩く恋人達。嬉しそうに荷物を抱えて通りを行く家族。そんな何気ない日常の中に自分達が含まれている事を、フォンドヴォーは少しだけ不思議に思った。だがこれこそが、ずっと彼らが探し続けていた時間でもあった。
「ぶぇくしっ」
人ごみの向こうで派手なくしゃみが上がる。フォンドヴォーが近づくと、コロッケは街灯の下で鼻をこすっていた、のだが。
どさどさどさ。
「ぷぎーっ!?」
「あ」
くしゃみが振動となって伝わったのか、彼の真横にあった街灯のてっぺんから雪の塊が落下してコロッケの頭を直撃した。コロッケはその勢いで雪の積もった歩道に倒れ込み、コロッケの頭の上でもろに雪をかぶったメンチはコロッケの頭から放り出され、雪の中に埋もれてしまっていた。
「ははは、災難だったなあ、メンチ」
「ぷぎ、ぷぎぃぃぃ」
フォンドヴォーがメンチを雪の中から助け出すと、可哀そうに、思いがけないとばっちりにメンチは身体をぶるぶると震わせていた。メンチをコートの懐に入れタイでくるんでフォンドヴォーが温めてやると、ようやく落ち着いたらしいメンチが「ぷぎぃ」と溜め息(?)を吐いた。
「お前も大丈夫か?コロッケ」
「んー。なんか鼻がむずむずす、ぶぇっくしっ!るけど、だいじょ、ぶぇきしゅっ!」
雪も積もる寒さだというのに、コロッケの出で立ちはと言えばいつものランニングに短パン姿。子供は風の子とはよく言ったものだが、さすがにこたえてきたに違いない。
「風邪ひく前に、お前の洋服をどうにかした方がいいかもな」
「んー?そうなの?」
そんな会話を交わす二人と一匹の横を家族連れが通りすがる。両親に手を繋がれた兄弟の手には、同じような大きさのリボンにくるまれた包み。
「……ああ、そうさ。それに今日は、特別な日…」
その光景にある事を思い出したフォンドヴォーが口を開くと同時に、コロッケの背後から伸びる手。
「こんな所にいたのか」
「父さん!!」
その手で息子の頭をわしわしと撫でながら、伝説のバンカー・バーグは弟子を見据えて尋ねる。
「お前がついてたわりには遅かったじゃないか。道草でも食ってたのか」
「いえ、そうじゃないですが。コロッケのペースに合わせてたら、ちょっと遅れました」
用事があるから一足先に行ってるぞ、と言い残し半日前から姿を消していたバーグにこの先の広場へ来るように言われていたコロッケ達だったが、街のあちこちをかけずり回ったり先程のように街灯キックで遊んでいたりしたので、予定の時間より少し遅れての到着になる所だったのだ。
「ん、まあいいさ。おう、メンチ。いい所にいるな、温かいだろう」
「ぷぎゅっ」
フォンドヴォーの胸元でメンチが満足そうに答える。
「ねーねー、父さん!用事終わったの?」
「ああ」
「じゃーさ、じゃーさ、みんなで何か食べようよ!オレ腹減っちゃってさー!」
「そうだな。だが、その前に」
そう言ったバーグの隻眼が優しく笑う。手にした袋から取り出したそれを、バーグはぽんとコロッケの手に渡した。
「ほら。開けてみろ、コロッケ」
「え?…何これ?えっ、父さん、これオレにくれるの!?」
真っ赤な紙包みにかけられた金色のリボン。それを見た瞬間、コロッケの顔には予想だにしていなかったプレゼントの存在への驚きが浮かぶ。戦いの連続の日々の中、少年が今まで手にした事のなかったその包みはどれだけ輝いて見えるだろう。
「そうだ、お前のために買って来たんだからな。遠慮するな」
「わー…わー!すげー、すげー!オレもらっちゃっていいんだねっ!?うわぁ、すげー!!」
バーグが頷くと同時にコロッケが大喜びでリボンをほどきにかかる。がさがさと音を立てて開かれた紙包みの中からは、半円形をしたような布が出てきた。
「ん?何だ、これ?」
「それはな、こうするんだ」
「むぎゅっ」
コロッケの手から布を取ると、それを全円の形にふわりと広げてバーグがコロッケの頭にかぶせた。視界を布に遮られておかしな声を上げたコロッケだったが、布の中央に開いた穴から顔を出す事が出来た。
「これはポンチョだ。着てれば少しは寒さも違うだろう。ほら、ここから手を出す」
着慣れないポンチョに首を傾げているコロッケの手をとり、袖口へと導いてバーグが形を整えた。本当は大人用らしいそれはコロッケにはぶかぶかで、腕もすっぽりと隠れてしまう。だがその姿は森の奥に住む妖精や小人のようでもあり、普段のコロッケとはまた違ったある種の可愛らしさを添えていた。
「へえー…へえー、こうやって着るんだ!あったかい!あったかいよ、父さん!」
「温かいか、そりゃ良かった。オレと揃いだからな、寒い時はちゃんと着とけよ」
バーグの手にはもう一つ同じ色のポンチョ。ばさりとポンチョをかぶって腕を出すと、息子に向かいバーグがにっと笑った。
「うん!うん!ありがとう!父さん!!オレ、すっっっっげ――――嬉しい!!うわ―――い!!父さんとお揃い!ポンチョ、あったけ~~~~!!」
嬉しさのあまり駆け出すコロッケ。彼が道のあちこちを走り回るたび、フリンジのついたポンチョがくるりくるりと風に翻った。
「なるほど。サンタクロースにとっては重大な用事だったわけですね」
師が姿を消していた理由にフォンドヴォーが目を細める。伝説のバンカー・バーグが再びこの世に舞い戻ってきてから、家族で迎える初めてのクリスマス。隻眼のサンタからの贈り物がコロッケにとって、どれほどの価値のあるものかなんて想像に難くない。たとえどれだけの禁貨を集めようとも、あのポンチョに勝るプレゼントなどこの世界のどこを探したってあるはずはなかった。
「色々考えたんだがな。何分オレがプレゼントなんてもらった事のない子供だったから、何がいいのか分からなくてなあ。随分迷った。お前が選んだ方がもっとこう、子供が喜ぶようなプレゼントになったのかもしれんが」
揃いのポンチョごと腕を組み、雪を蹴り上げてはしゃぐコロッケを優しい眼差しで見つめながらバーグが呟く。
「いいえ。師匠が選ぶ事に意味があるんですよ。きっと何をもらっても、コロッケは喜んだはずです。ベストチョイスですよ、そのポンチョは」
「おう。温かくていいぞ、これは」
ごく自然に父として振る舞うバーグの姿に、フォンドヴォーは言葉にならない嬉しさを感じた。ごく普通の時間がここにある幸せ。大好きな人達が笑っているこの時間。これからは毎年、このサンタクロースがやんちゃ坊主にプレゼントを持ってやってくるに違いない。その事がまた、嬉しかった。
「そうだ。これを忘れちゃいけないな」
「はい?」
そのサンタクロースが持ってきた袋をかき回す。そして手にしたそれを、黒いコートの上からフォンドヴォーの胸元に押し当てた。
「コロッケにだけじゃ不公平だからな。でもお前はもう子供でもないし、こんなもんでどうだ」
「…!」
柔らかなウールの緑色のマフラーをフォンドヴォーの首にふわりと巻き、その端をコートの胸元に押し込んでよし、と頷いた。
「どうだ、メンチ。オレの見立ては」
「ぷぃっ、ぷぎぷぃっ」
「そうかそうか。良かったな、フォンドヴォー。お前に似合ってるとさ」
緑のマフラーに身体を摺り寄せながら嬉しそうな声を上げたメンチに、バーグがかかかと笑った。
「…師匠」
泣かされそうだ。この人の優しさに。
弟子として、そして家族としての自分を忘れないでいてくれた師に、フォンドヴォーは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます。…大切にします」
「まあ、お前も風邪はひくなよ。今年のは厄介だって言うからな」
「はい」
少しだけ鼻をすすったのは寒さのせいだ、と一人胸の中で理由をつけ、フォンドヴォーは大きくバーグに頷く。
「よーし、コロッケ!メシにするぞ!今日はクリスマスだからな、でかい鳥の丸焼きでも食うか!」
「わー!!丸焼き!?すげー!!楽しみ~~!!」
腹ペコの子供と大人とが元気良く街の通りを駆け出す。その背中に手を伸ばし包み込むように、天からはちらほらと雪の欠片が降り出していた。
「よし、俺達も行こう。目一杯食べるぞ、メンチ」
「ぷぎーっ!」
緑のマフラーで胸元のメンチを包み直すと、フォンドヴォーも二人を追って歩き出す。
「メリークリスマス。皆、元気で」
小さく呟いたフォンドヴォーの唇に、冷たい欠片が一片舞い降り、すぐに消えた。

メリークリスマス。メリークリスマス。
来年も、その次も、この幸せが絶える事無く皆の側にありますよう。


END