la strada(ちびバーグ&フォンドヴォー)

VS with Y様  内容はGBAGreatに準拠しています


見上げる空の高さはいつの時代でも変わらない。
時空の扉を通りやってきた過去の時代の澄んだ空を見上げ、フォンドヴォーは胸いっぱいに空気を吸い込んだ。
キンダック軍、カラスミ達も時空の扉を使いそれぞれの願いを実現しようと動いている。思惑が交差する時間旅行の入り口はここ、ブイヤベース遺跡の大きな石扉。何度かの時間旅行の間に仲間の数は驚くほど増えた。数奇な運命に引き寄せられた頼もしい面々との旅はもうしばらく続くだろう。自分達は必ず勝利を掴まなくてはならない。未来の平和を手にして初めて、現代へと還る事が許される。
「責任重大だな」
たった一人、未来から助けを求め現代にやってきた少年ハム。彼の強い願いがこの扉を通じ、あまりに不思議な冒険と対面とを生み出した。だがそんな事を口にしながらも、フォンドヴォーの中に恐怖や不安はない。どうしてだろう。敵は倒しても倒しても無尽蔵に現れるし、何度だって危ない場面もあったのだが。
「大丈夫だって。オレ達ならなんとかなる!」
フォンドヴォーの気持ちを写し取ったかのような台詞が頭上から降ってきた。
「バーグ!」
いつからそこにいたのだろう、ブイヤベース遺跡の最上段に腰掛けていた少年バーグがへへん、と鼻をこすった。そのまま勢いよく遺跡を蹴り、太陽の光を背負って落下してくる。
「わ、わっ」
かなりの高さから飛び降りてくるバーグにフォンドヴォーが腕を伸ばす。小さな身体をかろうじて抱きとめるが、その勢いで二人は地面に転がった。
「ごめんなー。階段下りるのめんどくさくてさ」
「ははは。バーグらしいな」
身体を起こし、フォンドヴォーが地面にあぐらをかいたバーグの頭を撫でる。過去で出会ったこの少年こそフォンドヴォーの師匠・バーグその人。こんな出会いってあるのだろうかと最初は思った。だがそれも全て偶然が導いた必然なのだろう。小さいバーグ本人にはそんな事これっぽっちも分からないだろうが。
「キンダック軍、またこっちに来んのかな」
「どうだろうな。禁貨ゴーグルの事もあるし、油断は出来ないぞ」
「ああいうのが、そっちの時代だと発明されたりするんだな。すごいな」
「それを言ったらハムの時代の方がもっと進んでるだろう。同じ世界なのに、あんなにも違う場所になってる」
時空を超えて目にした世界。だがそれも、自分達の頑張りひとつで大きく変化してしまう状況にある。
「なんかまだ信じられないけど、でも、フォンドヴォーやコロッケは未来からここに来てるんだし。皆といるの、オレ、すごい楽しいしさ。頑張ろうぜ、フォンドヴォー」
「ああ。もちろんだ」
ふと、フォンドヴォーを見上げていたバーグの表情が真面目なものになった。真っ直ぐに見つめる眼差しに、フォンドヴォーが小さく首を傾げる。
「…キンダック達を倒したら、帰るんだよな。フォンドヴォー達は」
「………ああ、そうだ」
「そっか」
組んでいた足を解き、草の上でぱたぱたとさせながらバーグが再度問う。
「ここには残れないのか?オレやタロと一緒に、修行すればいいじゃないか」
「何だ。寂しいのか?」
「ち、違うって。…だって、せっかく、会えたからさ。楽しいからさ」
仲間としてのフォンドヴォーに向けられたバーグの思い。師としてのバーグが自分に与えてくれた思いとは違うけれど、とても嬉しい気持ち。それを受け取れない小さな寂しさを紛らわせるように、フォンドヴォーはバーグの頭をくしゃくしゃとかき混ぜた。
「バーグの気持ちは嬉しい。でも、俺達には俺達の過ごしてきた時間があるんだ。もし俺達がここに残ってしまえば、俺達がいるべき時間にいない事になってしまう。俺とコロッケはその時代で出会っているから、それがなかった事になってしまう。となったら、どこかで確実に歴史がおかしくなってしまうだろう。結果として、またハムの時代に影響が出てしまうはずだ」
「う~~~ん。なんかむっずかしーけど…仕方ないよな。駄目なんだもんな」
「だから、俺達はそれぞれに出来る事を頑張ろうぜ」
「うん。分かってる」
静かに吹き付ける風が二人の髪を揺らした。
「なあ、フォンドヴォー。さっき、元いた時代でコロッケに会ったって言ったよな」
「うん、そうだけど」
「それって、運命ってやつかな」
「かもしれないな。コロッケに会った事で、ウスターやリゾット達にも出会う事が出来た。そのおかげで、今こうしてバーグに会う事も出来てる。…不思議なもんだ」
「でも、それって、絶対何かがどこかでつながってるからだぜ。えーと、こう、道を歩いてくとさ、分かれ道があって。どっちかを選ぶとまた次の道があって。それみたいにさ」
腕を伸ばして道を描くようにしながらバーグが説明する。その通りだとフォンドヴォーは思った。時間という道。運命という道。いくつもの分岐の先、可能性のひとつとして出会った自分達。たとえこの時空の扉を最大限に使いこなせたとしても、フォンドヴォーが生まれてから今に至るまでの小さな偶然と必然までを全て再現する事は不可能だろう。
伝説のバンカー・バーグとの出会い。そこを起点として今もフォンドヴォーの中に生きるバーグへの敬愛。それをまさか、こんな形で辿る事になるなんて思ってもいなかったけれど。タイムトラベルの中で小さなバーグと出会い何度も思い起こした師への気持ちにフォンドヴォーが目を細めた。
「フォンドヴォー」
「どうした、バーグ」
この日一番の真面目な声音で、バーグはフォンドヴォーに尋ねた。
「オレ、フォンドヴォーに会ってないかな。フォンドヴォー達の時代で」
「…!」
「フォンドヴォーやコロッケがこの時代に来てさ。なんか、バンカー・タロの事も知ってたし。だったら、そっちの時代にもオレがいるんじゃないかなって。どこかでフォンドヴォー達に会ってたから、今みんながここに、オレのいる所に来たんじゃないか…って」
時空の扉で渡ってきたこの過去で、少年のバーグと若かりし日のタロに会ったのは偶然の域に入る。まだバーグは伝説のバンカーではないし、コロッケ達はバーグを探して過去に来た訳ではないから。
「オレ、いないかな、そっちの世界に」
フォンドヴォーの膝にぺたりと手をつけ、バーグが真剣な表情でフォンドヴォーを見上げていた。
「………」
「なあ、フォンドヴォー……、?」
沈黙を守るフォンドヴォーの名をバーグが呼ぶ。と、バーグの目の前でフォンドヴォーが人差し指を立てた。その形のままの手でバーグの唇に軽く触れる。
「残念だが…俺はそれを教える事が出来ない。バーグがここで未来の情報を知ってしまったら、またここから先の時間が変わっていってしまう可能性があるからな」
そして今度はフォンドヴォーが人差し指で自分の口を塞いだ。これ以上は語れない、そして聞いてはいけないという約束をそっとバーグに教えるために。
「う…うう~~」
多分フォンドヴォーが知っているだろう事実。それを知る事が出来ないもどかしさに、気丈なバーグの目に微かに涙が浮かんだ。
「でも、これだけは言えるぜ」
気持ち大きな声を出したフォンドヴォーに、バーグがはっと顔を上げた。
「道はどこかで繋がっていく。どこへでも繋がっていくものだ。だから、俺とバーグがこの先の時代で出会う可能性は、ゼロじゃない」
進み続ければ。信じ続けていれば。ただ一つ伝えられる真実を、この少年が忘れないでいてくれたなら。
「…そっか!そうだよな!うん、分かった!オレ、いつかフォンドヴォーに会えるように頑張るぜ!修行もちゃんとして、フォンドヴォーに負けないくらい強いバンカーになる!」
輝くバーグの表情。すっくと立ち上がると、小さな身体をいっぱいに動かして戦いの構えを繰り出した。
後に伝説のバンカーとしてこの世界に名を馳せる事。そのバーグにフォンドヴォーが師事する事。彼自身が辿る悲運から、コロッケとフォンドヴォーの運命が再び回りだす事。知るべきではない、知らなくてもいい、知ってはいけない歴史と、今この時からバーグは静かな戦いを始めた。
「ああ。そうだ。きっとできるさ。…バーグになら」
それらを全て、この先の道に背負い行くだろう少年の背中を、フォンドヴォーは固く唇を引き結んで見守っていた。


ォォォォ……ン。
閉ざされた岩扉は何事もなかったかのように、時空の旅を終えた一行の目の前に在った。
「…閉まっちゃったでっすね」
「ああ。全部終わったんだ」
キンダック軍の野望を砕き、未来の平和を約束してようやく帰ってきた現代。もう変える必要のない歴史は、この扉の奥底で再び眠りについた。
「もう一度くらい開かないっぺか?」
「無理だろ。それにもう、オレ達がする事もねーし。これでいんだよ、これで」
全てを終えてきた。これ以上語るのは野暮というもの。胸に満ちた思いを胸に、皆がぽつぽつと街に向けて進み始める。
「よし、テト、おじいちゃんに会いに行こ。あたし達がしばらくいなかったから、きっと寂しがってるわ」
「そうだね。何だか急におじいちゃんに会いたくなっちゃった」
「あ~、二人とも!どうだね、タロに会うよりもオレ様とデートなど…」
「お断りよっ」
そして、ブイヤベース遺跡に最後に残ったのはコロッケとフォンドヴォー。
「行こうぜ!フォンドヴォー!」
扉の前で立ち尽くすフォンドヴォーの背中にコロッケの声が飛ぶ。だが、フォンドヴォーは動かない。
「…師匠」
覆した未来の道。辿ってきた過去の道。その中でまだ出来る事があったんじゃないか。あの少年バーグといた時間の何かが、現在に何かを及ぼしているのではないか。様々な思いが一度に去来して、まだ整理がつききっていない。
本当は。本当は、もう一度。
「休んでなんかられないぜ?父さんを生き返らせなきゃなんだからさ!」
この扉をくぐる最後の瞬間、途方もない心の強さを見せたこの少年。やはりバーグの息子だと思わずにはいられなかった。大人にはないただ一途な意思を、この先もコロッケは抱き続けるのだろう。この時代で。この道で。
「………そうだな」
ひんやりとした石の冷たさを手袋越しに感じ取る。これが最後。そのまま扉をとん、と押し、勢い良く振り返ってフォンドヴォーが歩き出す。
「行こう、コロッケ」
「うん!」
過去から渡り続ける風が、並んで歩き出す二人の髪を大きく揺らしていった。

道は続く。
命と時間の在る限り、果てない未来へといくつもに別れゆきながら。
目の前に開けたそれをただ真っ直ぐに、自分の足で踏みしめて。
行こう。旅はまだ、終わらない。

いつの日か、必ず、もう一度。


END