Rain 3(ウスター×リゾット)



しっとりと雨に濡れた風景。弱まり行く雨脚。
「い、てぇ…」
そして、気付けば猫はゴミの中。
じんと重く感じる頭を振り、痛む身体を緩やかに起こしてウスターが回りを見渡すと、彼の周りには
ドラム缶やら木箱やらの大型ゴミが山積して小さな丘くらいの高さになっていた。
背中に感じる硬いものはどうやら林檎の木箱らしく、甘い残り香が鼻に届く。
ゴミの集積所が偶然にも落下地点だったため、地面に直接叩き付けられるより遥かに少ない衝撃で済んだのだ。
それでも、突き出た木片などが身体に刺さらなかっただけ幸いと言えるかもしれない。
「くそ…、ざまあねえ…ッ!!」
ゴミに埋もれた足を引き抜こうとして、ウスターが激痛に顔をしかめる。
深く埋もれたまま動かせない左足。どうやら落下のショックで足首をやられたらしかった。
例えこの足をゴミから引き抜く事が出来たとしても、このままではとても動けそうにない。
そして、手負いのウスターに近づく人影。足音がゴミの山を登ってくるのが分かる。
流石にここまで来られては、もう抵抗をする気にもなれなかった。
(もう、どうにでもなれってんだ)
動かせない左足以外を大の字に放り出したウスターの目の前にリゾットが立つ。
ふてくされたまま動く気配を見せないウスターに、リゾットが静かに問いかけた。
「逃げないのか」
「あんたから逃げるのなんか、オレにゃムリに決まってるっての」
「じゃあ、なぜ逃げた」
「逃げたかったからだよ」
「どうして」
「……」
黙して語らないウスターに、僅かに苛立った様子でリゾットが近づく。
「理由もないのに逃げたりはしないな。
 どうしてなんだ、ウスター」
「……」
「ウスター!!」
「へっ!?」
突如大声をあげ、ゴミの上に寝転んだ姿勢のウスターにリゾットがのしかかる。
そのままウスターの胸元をひっ掴むと、鼻筋がぶつかりそうなくらいに顔を近づけた。
ウスターの首の鈴が、険悪な場の雰囲気に合わない涼やかな音をたてる。
そしてあまりに突然な接近に、ウスターは声一つ上げられない。
スーツの下で己の身の毛がぶわっとよだつのが分かる。だが、それは恐怖のためではない。
(馬鹿だ。本当馬鹿だ、オレ)
こんな時なのに。こんな状況なのに。
近づいたリゾットの表情に胸が高鳴っているなんて。
息を止め、高鳴った鼓動を押し隠すように沈黙するしかできない。
「オレに言えないような何かをしているのか?
 だからもう城には戻らない?
 まさか、カラスミみたいな連中に加担しているんじゃないだろうな!!」
「わ、わっ!?」
怒りに身を任せたリゾットが更に身体を乗り出し、ウスターを言及する。
あとほんの少しリゾットの勢いが良かったら、唇同士が触れてしまっていただろう。
「もしお前がそんな事をしているなら容赦はしない!
 どんな手を使ってでも連れ戻す!!
 そんな奴らの仲間になるような事させてたまるか!!」
「リゾット」
コロッケ達との旅路で、正義感と優しさを取り戻したリゾット。
彼の強さは揺るぎ無く、そしていつでも真っ直ぐに仲間に向けられる。
「ウスター、お前にはいるべき場所があるんだ。
 どこにいても、何をしていても…いつだって…
 オレ達は、仲間だろう!?」
仲間。
その響きが、再びウスターの胸に鈍い痛みを蘇らせる。
(違うんだよ、王子様…オレはもう)
こんなにも真っ直ぐにリゾットが思ってくれているというのに。
己の心は、それとは違う想いを欲して止まない。
自分の内でくすぶり続ける感情に、ウスターは大きな大きな溜め息を吐いた。
「…ウスター?」
「もういいよ」
突然のウスターの笑顔。
普段の彼からは想像できないほどの悲しげな笑顔。
穏やかな表情に不意をつかれ、ずっと掴み上げていたウスターの胸元を
半ば反射的にリゾットは離してしまっていた。
「やっぱ、ダメだ。
 これ以上オレを惨めにしないでくれよ、リゾット」
その声音には艶さえ滲んでいるかのようで。
「惨めって、どういうことだ」
「説明したって分かりゃしねえよ」
「…説明ならちゃんと聞く。
 やりもしないうちから、あきらめるなんておかし…」
「オレだってどうしてだか分かんねえんだよっ!!」
「!?」
いきなり跳ね起きたウスターの頭が、あわやリゾットに直撃しそうになる。
さっきまで諦めに染まっていた大きな瞳には激情の炎が点り、リゾットを睨み付けていた。
「なんでだよ。なんでこんなさあ、絶対に手に入らない…
 考えりゃ分かるのにさ?無理だってよ?
 なのにどうして…本当自分に聞きてえよ、ちくしょう」
かと思うと今度は身体を丸めて頭を振り、一人ぶつくさと愚痴り出すウスター。
その豹変振りに完全に怒気を削がれ、何が何だかわからないながらも、リゾットは
俯いたままのウスターにそっと顔を寄せた。
「ウスター、何を言って…」
少しだけ顔を上げ、リゾットをキッと見据えながらウスターが歯を食いしばる。
そして目をきつくつぶり、一瞬小さく息を飲んだかと思うと、ついには吐き捨てるように絶叫した。
「あんたを!!好きになっちまったんだよ!!!」
「…えっ!?」
あまりにも予想外の答えに、リゾットの動きが完全に止まった。