perso in te(フォンドヴォー×リゾット)



全てが白く、白く、白く。
突如として村を包み込んだ吹雪が、視界の全てを白く染め抜いていく。
「ひゃあ」
吐息と一緒にそんな言葉を吐き出しながら、フォンドヴォーが吹雪から身を隠すように建物の壁に貼りついた。
「ふう…参ったな、野菜が雪まみれだ」
フォンドヴォーと同じように屋根の下に滑り込んだリゾットが、腕に抱えた荷物を目にして眉をしかめた。


山々が雪に染まる旅路。
予定より早く目的の村に辿り着いたコロッケ一行は早めに宿を取り、残りの半日をのんびりと過ごす事になった。
「よし、この先必要な食料も早いうちに調達してくるか。
 誰か店までついてきてくれないか、荷物持ちに」
そう言ってフォンドヴォーが声をかけたのだが、同伴を申し出てくれたのはキャベツだけだった。
Tボーンは早々に眠ってしまっているし、コロッケやウスター、プリンプリンは雪が降っている外にわざわざ出るのは嫌だと言う。
ついでに言ってしまえば、あまり背丈のないキャベツに荷物持ちを頼むのもちょっと気が引けた。
「気持ちだけもらっておくな。ありがとう、キャベツ」
「お役に立てず申し訳ないでっす」
「いや、いいんだ。行ってくる」
コートの中の財布を確認してフォンドヴォーが歩き出した。
窓の外には雪がちらついていたが、このくらいの天気なら買い物に行って帰ってくるぐらいは出来るだろう。
部屋に寄っていつもの棺桶を持っていけば、腕に抱えるより多くの荷物を運べるし。
「えーと、肉がもうない。パンもない。飲み水と塩と、あとそれから」
「オリーブオイル、チーズ、胡椒。あと、ウスターが美味い酒を頼む、だそうだ」
「はいはい、酒…って、あれ?」
買ってくるものを呟きながら歩いているフォンドヴォーのすぐ横にリゾットがいた。
「そう言えばさっきいなかったな。どうした?」
「荷物を片付けてただけだ。
 …買い物に行くんだろう」
フォンドヴォーとはリズムの違う足音が止まることなくついてくる。
「うん、そうだけど。
 ウスターの奴、外に出るのは嫌だって言うわりには人に買い物だけ頼むなんて、いい根性だ。
 酒は何か適当に見繕ってくるから、リゾットはここで待ってな」
リゾットの頭をぽんぽんと撫でると、不服そうな視線がフォンドヴォーにぶつかった。
「…荷物持ちが要るんじゃなかったのか」
「まあ、そりゃそうだけ…ど」
よくよく見れば、リゾットは後ろ手に愛用のマントを持って歩いている。
フォンドヴォーが一人で買い物に出かけたと聞いて急いでついてきたのかもしれなかった。
理由をつけてではあるけれど、傍にいてくれるリゾットの気持ちが嬉しい。
再び彼の頭を撫でながらフォンドヴォーが尋ねた。
「頼んでもいいか?荷物持ち」
「仕方ないな。他の連中が行く気がないんじゃ」
マントをばさりと肩に巻きつけ、リゾットがやれやれという表情を見せる。
素直についていくなんて口にはしないのもまたリゾットらしいというか。
二人なら棺桶は必要ない。真っ直ぐ宿の出口に向かう。
「ありがとな」
「ん」
そんな言葉を交わして、二人は村の市場へと買い出しに出かけた。


二人で買い物をしたのは良かったが、そろそろ帰ろうという頃になって急に雲行きが怪しくなり始めた。
デザートの買い出しを切り上げて宿に向かうも、数分も経たないうちに猛烈な吹雪が村全体を包み込んだ。
荷物を抱えて進むこともままならず、すぐそこの道端にあった小さな小屋の軒先になんとか避難した所だ。
「すぐに止むといいんだけどなあ」
帽子を取り、積もった雪を払いながらフォンドヴォーが言う。
「止むのか?そんなすぐに」
置いてあった木箱の上に荷物を置き、頭の雪を払いながらリゾットが聞き返した。
「どうだろうな。山の天気は気まぐれだから」
同じように荷物を置くとコートの雪を払うフォンドヴォー。
「まだ残ってるぞ」
フォンドヴォーの肩口に残っている雪を払おうとリゾットが手を伸ばした。
「そっちこそ」
リゾットの手が届くように少し背を屈めると、フォンドヴォーはリゾットのマントの雪を払う。
ひとしきり互いの雪を払い落とすと、二人は壁にもたれて目の前の吹雪を眺める。
小屋の屋根がわりと幅広なおかげで直撃こそあまりないが、それでも寒い事にかわりはない。
うっとおしいほどの風の音と雪の白だけが全ての世界。
「…帰れるんだろうな」
「…分からん」
時間が経っても皆目弱まる気配を見せない吹雪にリゾットが苛立った声で呟く。
そんなリゾットをあざ笑うかのように吹雪が向きを変え、二人に真正面からビュオと吹きつけた。
「!…っ」
リゾットがマントの下で身を縮める。
マントが防寒の役目も兼ねているとは言え、その下に腕の出たいつもの服しか着ていないリゾットにとっては
この寒さの中で長時間過ごすのはそれなりに酷と言えた。
「ごめんな」
「何が」
「荷物持ち。連れてきちゃって。
 宿にいれば、寒い思いしなくて済んだろ」
リゾットに寒い思いをさせている事を悔いたか、フォンドヴォーが申し訳なさそうに言って口を引き結んだ。
一瞬だけ相手をちらりと見、身体をずらしてフォンドヴォーに近寄ると少しだけフォンドヴォーの腕に
自分の肩を押し当て、リゾットが答えた。
「こんな天気になるなんて分からなかったんだ。
 …それに」
まだ身を縮めながらだったが、吹雪の中でも確かにその声はフォンドヴォーに届く。
「ついてきたのはオレの意思だ。…フォンドヴォーのせいじゃない」
リゾットが白い世界を見つめたままなのは照れの表れなのだろう。
腕に触れる感触にフォンドヴォーが目を細め、そしてふと何かを思いついた顔になる。
左手を胸元で動かしながら、自分の右側にいるリゾットのマントの中へと右手を差し入れた。
「わっ!?」
突然腰に回されたフォンドヴォーの腕にリゾットが声を上げる。
「ちょっと失礼」
今度はマントをたくし上げられ、冷えた空気にリゾットの肌が晒された。
「な、何す…寒いじゃないかっ!」
怒鳴りつけてきたリゾットを正面に引き寄せると、マントをずらして彼の背中を包み込むようにフォンドヴォーが抱き寄せる。
そのままくつろげておいた自らのコートの中に押し当て、コートごとすっぽりとリゾットをしまい込んだ。
「この方があったかい」
コートの上で両腕を重ね、リゾットが逃げられないように身体を密着させる。
「ちょ、馬鹿…!
 だから、なんでこういう事をこっちの許可もなく勝手に」
「させてくれって言ったとして、ああいいよって言ってくれるか?リゾット」
「……」
多分フォンドヴォーの言うとおりで、現在している事をさせてくれと尋ねられたところで
いかに寒いとは言え、照れ屋の王子様がそれに素直に応じることなどまずないだろう。
不言実行の姿勢で接してくるフォンドヴォーへの諦めが溜め息となってリゾットの口を吐く。
「誰かに見られたらどうするんだ。こんな…男二人で」
「この吹雪の中でわざわざ外に出る人もいないと思うけど。
 いたとしても、俺達に気づくより家に帰るのに夢中さ」
フォンドヴォーの頭がリゾットの左肩に乗り、耳元で彼の声が響く。
背中に触れる彼の胸から静かな心音が伝わり、コートごと包まれた身体はフォンドヴォーの体温で
悔しいくらいに温かくなってゆく。
痛いほどに冷えた耳も、摺り寄せられたフォンドヴォーの肌の温もりを受けて音を取り戻す。
フォンドヴォーのコートの中で動かした右手で、彼のズボンの太腿あたりを掴んだ。
手の届く距離。
忌々しい吹雪が期せずして与えた二人だけの空間。
「…止まなければいい」
思わずそんな呟きがリゾットの唇から零れる。
「賛成かも」
「!」
そしてすぐさま耳元で答えたフォンドヴォーに、リゾットが目を見開いて首を巡らせた。
「フォ…いちいち答えなくていいっ!」
「いや、だって聞こえちゃったからさ。この距離だし」
リゾットの肩に頭を乗せていたフォンドヴォーにリゾットの呟きが聞こえないはずはない。
あと少し首を左に動かせば唇が触れてしまいそうな状態だということに、リゾットは初めて気づく。
フォンドヴォーの口がにっと笑うと、身体を動かして今度はリゾットの右肩に頭を乗せた。
「左はあったかくなったな。次はこっち」
まだ冷たいままだったリゾットの右耳に頬を押し当て、満足そうにフォンドヴォーが言った。
全く、どうしてこの人は、こんなに。
「………」
全身を包むフォンドヴォーの匂いと温もりに、吹雪の中にいることさえ忘れてしまいそうになる。
このまま雪が止まなければいい、もう一度そう口にしてしまいそうになる。
ずっと。このままずっと。
その思いが、リゾットの首を再び巡らせた。
今度は右へ。
そこにあった金色の瞳がすっと細まり、どちらからともなく唇が触れた。
コートの上から優しく抱きしめる彼の腕に力がこもる。
身体ごと抱きしめられていて、その手を握れないのが唯一残念で。
名残を惜しむように互いの唇が離れ、そして二人してにやりと笑った。
「止むまでだぞ」
「分かってるって」
重心を完全にフォンドヴォーに預けながらリゾットが念を押す。
細い身体をしっかりと包み込みながらフォンドヴォーが頷く。
そうしてもうしばらく続くのだろう吹雪の中、二人はそっと目を閉じた。
寒さの中唯一繋がったこの温もりだけを感じるために。


白く、白く、白く染め抜く雪。
自然のいたずらがまだ当分、彼らを自由にはしそうにない。


END