くればいいのに(ver.SHU-S.) 3



メール着信音がほんの一回鳴り、部屋は静寂を取り戻す。
横たえていた身体を起こし、机の上の携帯を開いてメールを確認する。彼からだった。
『起きてる?』
そんな短い言葉だけを伝えてくる所は昔と変わらない。
『起きてるよ。仕事から帰ったとこ。そっちは?』
そう返信すると、二分としないうちに返事が来た。
『今ちょっと外出てる。電話していい?』
メールを読むなり、僕はすぐさまあっつーの携帯に電話をかける。一秒でも早く彼の声を聞きたかったから。
『うお、電話早えっ』
「やっほー。外出てるんだ、仕事帰り?」
『あー、うんまあ、ちょっと遠回り中』
他愛無い会話を切り出した。電話口の向こうからはがさがさと何かの動く音が聞こえる。彼が言う通り荷物を持ってどこかを歩いているのだろう。いつもと変わらないあっつーの声が、寂しさにへし折れそうになっていた気持ちを救ってくれた気がした。
『どーよ、仕事は。次休みいつ?』
「ああ、明日一日出たら一応明後日が休み。大きな締め切りはさっき終わらせてきたから、少し楽」
『おーおー、そっか。おつかれちゃーん』
いつも通りのあっつーの声が胸に染みる。遠くにいるけれど、やっぱり彼を好きなこの気持ちに変わりはないと実感する。がさがさ、彼の鞄が揺れる音が聞こえた。小走りで道を歩く彼の姿が目に浮かぶようだ。
「そっちはどう? 最近忙しいって言ってたよね」
『あー、それ。よーやく今朝、新しいシステムのアップデート終わったんだわ。もー何回もデバッグやり直しで、キツかったの何のって』
「そっか。そっちもお疲れ様」
『で、明日明後日休みもらった。連休とかすげー久しぶりに』
あっつーとの会話の隙間に、僕の住むアパートの階段を登る足音が聞こえた。他の部屋の住民とはあまり顔を合わせた事はないが、誰かが帰ってきたのだろう。
「良かったね、ゆっくり休みなよ。疲れてるでしょ」
『んー。だから今気分転換に外出ててさ』
電話の向こうの足音が止まる。あっつーが歩を止めたらしかった。
『今、起きてるじゃんね』
「うん。もう少しはね。電話の続きなら、そっちが帰ってからでも」
『や、そうじゃなくてさ』
「……?」
何かを言いたげな声が途切れ、僕は沈黙の意味を掴みかねて首を傾げた。
その時。

ぴんぽーん。

「えっ!?」
『起きてる、じゃんね?』
突如響いた呼び鈴。いたずらっぽく笑う声。

ぴんぽーん。ぴぽーん。

呼び鈴が鳴る玄関を凝視していた僕に、電話越しの彼が言った。
『開けてくんね? 寒ぃわ、外』
今度はだん、だん、と扉が叩かれ、突然の来訪が告げられる。
まさか、さっきの階段を登ってきた足音の主って。
「…………マジでー!?」
あっつーの口癖なはずの言葉が僕の口から零れる。予想外だ。不意打ちもいいところだ。
こんな嬉しいサプライズ、どうしてあいつは。
電気ショックでも食らったかのように心臓の鼓動が早くなり、僕は携帯を放ると玄関へ駆け出す。これが夢でないのなら、扉の向こうであっつーが笑っている。
おぼつかない指でドアのチェーンを外し、そっと扉を押し開いた、そこに。


あなたがくればいいのに。


END