seul au monde 2(ロン毛×デフォ)



「すみません、これ下さい」
「はい、二百二十円になります」
「ラベンダーの匂いのお香とかありませんか?」
「ごめんなさい、今ちょっと切らしちゃってるんですよー」
「そうですか、じゃまた今度買いに来ます」
ラスタカラーの帽子をかぶったお店の店長さんがお釣りを返してくれた後で、僕は話を切り出す。
「あの、すみません。一つお願いしたい事があるんですけど、いいでしょうか」
「はい、どんなご用件で」
「今、お店の外の椅子に僕の友達が座ってるんですけど、さっち近くで自転車で転んじゃったんですよ」
「あららー」
「電話もらったんで見に来たら、結構手とか怪我してて、身体も打ったって言うんで」
「あー、ウェットティッシュくらいしかないけど良ければ……友達大丈夫そう? 絆創膏とか探せばあるかもしれないけど」
「ありがとうございます。もうすぐ僕の家の方に行くバスが来るんで、それで僕の家に連れて行きます。それで、あの、申し訳ないんですが、友達の自転車を、このお店に停めさせていただく事出来ないでしょうか? 二、三日のうちに取りにきますので」
「ああ、なるほどそういう事ね。OK、うちで預かるよ。もうすぐ店閉めるから、在庫置き場に入れておくけどいい?」
「本当ですか! ありがとうございます!」
「自転車、店の横に持ってこれる? あと、よければこれ」
「はい! すぐ持ってきます」
店長さんが渡してくれたウェットティッシュのケースを入り口のあっつーに渡し、傷を拭いておくようにと言ってあっつーの自転車を取りに行った。店長さんは店の裏にある倉庫――中にはアジアのドラムや、変わったお面などが沢山あった――の中に自転車を入れ、あっつーの様子を見に来てくれた。
「結構ひどくやってるね、手だけ? 骨とかは?」
「あ、はい、歩けないとかはないっス。膝とかちょっと傷ありそうだけど、こいつん家までは行けます」
「あまり痛いなら外科行く方がいいよ。自転車はうちのスタッフに話しとくから、言ってくれれば倉庫から出すよ。名前と、電話番号だけもらってもいい?」
「長嶋っス」
「妹尾です」
手の自由がきかないあっつーの代わりに僕がペンをとり、二人分の名前と携帯の番号をメモして店長さんに渡した。
「妹尾くんは自転車いいの?」
「はい、僕は瀬賀駅前の薬局に寄ってからバスに乗るんで、案鉄ストアに自転車停めていきます。すみません、ご迷惑おかけします」
「いいよ、バスの時間あるでしょ。気をつけて帰ってね」
「はい! ありがとうございました、失礼します!」
「ありがとうございます! チャリ、すぐ取りに来ますんで!」
あっつーの血が滲んだティッシュを受け取り、彼の自転車の鍵をあっつーに返して、店長さんは笑顔で僕らを送り出してくれた。自分の自転車を引きながら、あっつーの歩くペースに合わせてバス停まで歩いた。
「八時一分、間に合ったね」
バスの接近を知らせるランプもないシンプルなバス停。古くなったベンチに腰かけながら、あっつーが僕に言う。
「いっちゃんはもう行った方がいいんじゃね? そっちチャリだし、薬局にいる間にバスが通り過ぎたら意味ないしさ」
「薬局から瀬賀駅前へ言って、神社方面にまた行くまでに十分くらいかかると思うけどこっちも自転車停める時間あるしね。あっつー、バスに乗ったらメールくれる? それでだいたいどの辺来てるかとか分か……メール、打てる?」
まだ生々しく血が滲む彼の手を見て、僕は尋ねた。
「最悪左でも打つし。ほれ、早く行った行った。バス来るぜ?」
「……そうだね。瀬賀駅入口から乗るから、待ってて」
「あいよ!」
電話をかけてきた時よりは元気な口調になったあっつーに少し安心を覚えつつ、僕は自転車で薬局に向けて出発した。薬局までの道程はこの大きい道に沿って一本。あっつーの乗ったバスに乗れるよう、ちゃんと時間を計算して動かないと。
「先に案鉄ストアに自転車停めた方が戻らなくていいよね。消毒、絆創膏、えーとあと、湿布? あとコンビニで食べるものまで、行ける、かなっ」
ぶつぶつと呟きながらペダルを漕ぐうち、自転車を停められるスーパーに到着。買い物客の自転車に並んで自分の自転車を停め、鍵をかけた所で携帯が鳴った。
「バス出た」
とだけ打たれたあっつーのメール。八時十二分、少し遅れてバスが来たのだろう。さっきのバス停から薬局前まで、道が混んでいなければ十分もかからずバスは来る。僕は大急ぎで九時まで営業している薬局へと飛び込んだ。
消毒薬、絆創膏、包帯に湿布などを買い込んで店の外へ。自分が乗るバス停へ向かおうと交差点に差し掛かった時、さっきのバスが駅の方へと曲がっていった。運転手のすぐ後ろの席に座っていたあっつーが僕に気付き、手を振っていた。
あっつーに手を振り返し、僕は交差点にあるコンビニに入る。おにぎりやパンなどの食べ物、飲み物を適量買ってバス停に向かった。数分待った所で例のバスが到着し、僕はあっつーの横に腰を降ろした。
「お疲れー。間に合ったな」
「バス、少し来るの遅かった? それでちょうどよかった感じ」
「五分くらい待ったかな。て、何か色々買ってるし」
「夕飯とかね、ついでだからコンビニで」
「あー、そうか飯か。転んでびっくりして忘れてた」
「そうだよ。家着いたらゆっくり食べよう?」
「……うん」
そんな事を話しながら揺られているうち、バスは僕の家の前、『案砂神社前』に到着する。あっつーがゆっくりとバスを降りた後、僕は彼のショルダーバッグを取って自分の肩にかけた。
「え、自分で持つし」
「大丈夫。あっつーは歩く事に専念して」
参ったな、と言うように苦笑するあっつーの横を彼と同じ速さで歩く。本当は手を引きたいけど、怪我をしている手を掴むわけにはいかない。もし彼がまたつまづくような事があれば、すぐに腕を出して支えるつもりだった。
少し時間をかけて、僕達二人は僕の下宿へと帰ったのだった。