seul au monde(ロン毛×デフォ)

<登場人物紹介>

妹尾いつき ロンゲ。案砂大二年生、語学・文学部所属。
少し自信家的な発言も見られるが優しい性格。女子にモテるものの、わりと「いい人なんだけどね」で終わってしまう事多し。
子供の頃からの本好き。クイズの得意ジャンルは語学・文学、趣味・雑学、グルメ・生活(知識的な部分で)。

長嶋敦史
デフォ。案砂大二年生、経営情報学部所属。
苗字はあのミスタージャイアンツと同じであるが(父親が大のGファン)、本人はどちらかといえばサッカーの方が好きらしい。
素直で人なつこい性格のため友人は多い。クイズの得意ジャンルはスポーツ、自然科学(の科学)、漫画・アニメ・ゲーム。


十一月四日、夜七時十三分。携帯が鳴り、僕は通話ボタンを押した。
「はい、もしもし」
「よーっ……す」
聞こえたのは幼馴染の声。
「どしたの、あっつー」
「今さ……外、出てたりしない?」
「ん? 家に帰ってるよ。どして?」
「あー……いや、そうだよなぁ」
電話の向こうから車が通り過ぎる音がする。あっつーは外から僕に電話をしているようだ。
「どこかご飯でも食べに行こうとした?」
「いや、そうじゃなくて」
ブォォォォ……と、大きな車が通り過ぎる音にあっつーの声がかき消されそうになる。いつもよりずっと小さな声でのあっつーの電話に、僕が首を傾げた時だった。
「ちょっとさ、チャリでこけたもんで。なんかテンパって、それで電話したって言うか」
「え? こけた? 転んだの、大丈夫?」
「あー……走っててさ、気がついたらチャリごとっていうか、前の方に放り出されて。ちょっと打った所が痛い感じ」
「えっ……待って、大丈夫なの!? 家帰れそう? 今どこなの!」
放り出された、なんて言葉を聞いて、僕は語気を荒げずにはいられなかった。
「今狸ヶ崎駅の近く……なんかアジアみたいな店あるじゃん、あそこの駐車場の横。流石にチャリ漕いで帰るのきついから、最悪ここにチャリ停めといて、どうにかして帰ろうって考えてるけど」
静かに説明を返すあっつー。だが、彼の声が小さいのは落ち着いているからというより、転倒によるダメージによるもののように僕には聞こえた。
「分かった、今からそっち行く。そこで待ってて、二十分くらいで行くから!」
「え、やーでも、悪いし……」
「怪我とかたいしたことなきゃ電話してこないよね? 行くから。待ってて!」
「……うん。分かった。頼むわ」
これはSOSだ。そう感じた僕は強い口調であっつーに待っているよう告げた。あっつーは素直にそれを受け入れ、頼むと僕に言った。
「すぐ出るよ、どこか座ったりできるなら座ってて」
「あ、じゃアジアの店の外の椅子にいるわ。店の人に邪魔言われたらその近くにいる」
「分かった」
携帯を切り、コートのポケットに携帯と財布だけをねじ込むと、僕はすぐさま部屋を飛び出す。自転車にまたがり、坂を駅の方へと下ってあっつーが待つ場所へと向かった。


七時三十七分、僕は目的地に到着した。草で編まれたランプがオレンジの柔らかい光を点す店先、木彫りのベンチにぽつりとあっつーが座っていた。
「おー。来たー」
自転車から降りた僕に手を挙げ、へらりと笑みを返す。だが、数歩近付いて彼のその右手を見た瞬間、僕は背筋が冷たくなるのを感じた。
「ちょっ、すごい血出てるじゃない!! ほ、他に怪我とかは!? どこぶったの!?」
あっつーの右手人差し指、中指、薬指小指の第一関節と第二関節全てに転倒による傷があった。血は止まっているものの、大きく穴が開いている人差し指や中指は満足に動かせる状態ではないのが一目瞭然。いつも使っている鞄を持ってきていればハンドタオルであっつーの血を拭けたのに、と僕は後悔した。
「んー、なんか前のめりにいったもんでさ、ハンドル握ったまま倒れたんだわ。だからそのまま手ぶったみたいな。右の方打ってるな、多分膝もやられてる」
エスニック雑貨屋の明かりに照らされたあっつーの顔にいつもの元気はない。そりゃそうだ、こんな怪我してるんだから。あの電話でここに来て正解だった。
「どこで転んだの?」
「狸ヶ崎のジャスコから、ケーキ屋の前通って戻る道あるじゃん。郵便局の方。あっちを普通に走ってたんだけどさ……三門台駅の通りに出る前の道でこけた。暗くて見えなかったから何かにひっかかったか、それかつまづいたか……気付いたらどしゃーん! だぜ。最初訳わかんなくて起きれなくてさ、十秒くらいしてからあー、オレこけたんだって」
これまでの様子を立て続けに話し、ふーっと大きく溜息をついてから、あっつーの前に立っている僕に向けて彼は僅かに顔を上げた。
「あん時さ、車来なかったから良かったわ。もしこけてすぐん時に車来てたら、オレ多分今死んでる」
へへ、と漏れた笑い。血の気が失せた顔に、僕は思わず彼の肩口を包むように腕を伸ばした。
「いてっ!」
「あ、ごめん……!」
「やっぱ思ったより打ってるな。チャリごと前のめりにいったじゃん? その時にハンドルだか籠だかで首のあたり、鎖骨のへん? 打ったみたいでさ。なんか喉苦しくて、声あんま出せないんだ」
僕にようやく聞こえるくらいの声量で話すあっつー。外傷以外の部分でも彼の身体に影響が出ている状態と知り、僕はとっさに携帯を見た。時間は七時四十五分だった。
「あっつー、明日授業は?」
「明日……は、二限から情報リテラシー」
「絶対出ないとやばい?」
「んー……一回くらいならいいと思うけど」
「よし。今から、僕ん家来る?」
「え? いっちゃん家?」
「うん。運が良ければだけど、そこのバス停から直通出るからそれで行こう。自転車はこの辺に置いといてさ」
「そりゃ、行けなくはないけど……」
「家に帰った方が休めるんならそれでいいよ、あっつーの家まで送る。でも、無理して自転車に乗ったりするより、バスの方がいいと思う」
「……そうだな……バスの時間が合うなら、いっちゃん家行く」
「分かった。時間見てくるよ」
エスニック雑貨屋前の大きな通りにはバスが通っており、このバスに乗れば僕の下宿近くのバス停まで直通で行く事が出来る。そしてそのバス停は雑貨屋から見える所にあった。自転車でバス停まで走りバスの到着時間を確認すると、僕は急いであっつーの所に戻った。
「いけるよ! 最終が八時六分だ、それ乗っていこう」
「そっか、んじゃそれで。自転車どこに置いてく? そこの銀行に停めさせてもらうか?」
「出来なくはないけど、銀行ってもう人いないよね……ちょっと待って」
これからの行動のために情報を整理しようと僕は沈黙する。十秒程考えて、自分のするべき事が決まった。
「よし。あっつーの自転車は、このお店に話をして停めさせてもらえないか聞いてみよう。二、三日で取りに来ますって言ってみる。駄目だったら仕方ない、銀行に鍵かけて置いていこう」
「あ、なるほど。え、いっちゃんのチャリは?」
エスニック雑貨屋のドアを指した僕を見上げながらあっつーが頷き、そして尋ねた。
「僕は自転車で瀬賀駅の方の薬局に行くよ。傷薬とか絆創膏とか買うから。あっつーがバスに乗る前に出て、買い物終わったら案鉄ストアの駐車場に自転車止めて、僕もバスに合流するから」
「あー、そういう事か……なんか悪ぃな」
「怪我人が悪いとか言わないの。よし、時間がないからどんどんやろう。ちょっと行ってくる」
「うん。サンキュ」
あっつーの頭を軽く撫でると、僕はエスニック雑貨屋に足を踏み入れた。店内には独特のお香の香りが立ち込めている。猫や蛙の置物などを眺めた後、薔薇の香りのお香を手に取り僕はレジに向かった。