チャンネルMを探せ(同人誌「チャンネルMを探せ」収録 男五人出会いの話)

<登場人物紹介>

長嶋敦史
デフォ。案砂大二年生、経営情報学部所属。
苗字はミスタージャイアンツと同じだが(父親が大のGファン)、本人はどちらかといえばサッカーの方が好きらしい。
人なつこい性格のため友人は多い。クイズの得意ジャンルはスポーツ、自然科学(の科学)、漫画・アニメ・ゲーム。

and more…


普段通る見慣れたはずの道。
「あっれ?」
そこで、普段は気にしない店を見つけた事。
それが全てのはじまりだった。

「こんな所に古本屋なんてあったんだ」
よく利用している大型チェーンの古本屋とは異なる、いかにも個人経営でやっていますという外観の店。店の外に並べられた棚に詰め込まれた本の背表紙をちらちらと眺めながら、長嶋敦史は古本屋『質疑応答』の店内へと足を踏み入れた。
普段行くのとは違うゲームセンターへ行こうと思い立ち、大学を出て電車に乗ろうと駅までやってきた。だが今日はバイトもないし時間がある。道も知っているし、電車一駅分ほどの距離なら歩いて三十分強もあれば行けるだろう。ちょっとした気分転換だ、といつもは電車か自転車で通るその道の途中で見つけた古本屋だった。覗いてみた店内は大型チェーンの古本屋に比べれば薄暗く通路も狭い。地震が来たら一発で崩れ落ちるだろうという数の蔵書が狭い店内にひしめき合っている。
(こういう所なら逆に古い漫画とかあるかもしんねーな)
少年漫画の棚を目で追い、自分が好みそうな漫画はないかと探す。特に探しているタイトルがあるではないけれど、安く買えそうなものがあるなら掘り出していこう。少しずつ店内を移動していくうちに、店主なのだろう人物の姿が視界に入った。
古ぼけたレジの置かれたカウンターで暇そうに新聞を広げながら、煙草をくゆらせている無精髭の男が一人。本を見ている敦史を気にする様子はなく、ひたすらマイペースに新聞を繰りながら奥のテレビ放送に耳を傾けているようだった。テレビを見るのではなく聞き流しながら新聞を読んでいるあたり、ある意味器用と言えば器用なのかもしれない。
(売る気ないだろ、あのおっさん)
そもそも本屋なんて客が好き勝手に本を探していくから接客は必要ないとは言え、愛想は良くなさそうな店主をちらりと見る。それでもこちらに対して反応を見せない相手に、敦史は逆側の棚でも本を探そうと狭い店内を移動した。
「あ、すいませ……」
そこで初めて気づいた、自分以外の客の気配。本棚に遮られ死角になっていた場所にいた客と肩をぶつけそうになり、謝ろうとした敦史が相手の顔を見て声を上げた。
「い……つき!?」
「敦史」
ひたすら寡黙に本を読んでいた人物も、敦史の存在に気づいて名を呼ぶ。妹尾いつきという名のこの青年は敦史の幼馴染であり現在は同じ大学に通っている。学科が違うのであまり連絡をとるでもなく、週に数回学食ですれ違う程度の付き合いだ。
「なんでいつきがこんな所にいるんだよ」
「なんでって、本が欲しいからだよ。敦史こそどうして?」
手にしていた小説をぱたりとたたみながらいつきが尋ね返した。確かに、いつきは昔から割と本を読むのが好きだったよな、と敦史は思い出す。今も大学では語学・文学学科にいるくらいだ。この店にもわりとよく足を運んでいるのかもしれない。
「オレは……ゲーセン行こうと思って、歩いてたら途中でここが見えたから寄っただけだよ」
「ゲーセンって、案砂駅前の『レガリア』じゃなくて?」
「目画職駅の方」
「……あそこまで歩いてくの。暇だねえ……」
「ヒマ言うなよ」
的確な感想を呆れ顔で言われ、ややむっとした顔で敦史がいつきを睨んだ。
「ゲーセンね、たまにはいいか。僕も行こっと」
「ついてきてくれなんて言ってないけど」
「個人的な気分転換だよ。歩くのは嫌いじゃないし。すみません、これください」
手にしていた本をレジへ持っていきいつきが会計を済ませる。その間も店主はタバコを咥えたままで、あまり言葉を発する様子はない。
(マジで売る気ないな、本当)
「戻りましたー。すみません、遅くなって」
いつきが鞄に本を入れている横から、新たな人物の気配が店の入り口に現れる。その声にいつきが顔を上げ、やってきた人物に声をかけた。
「テレン! あれ、どしたの?」
「いつき君!こんな所で会うなんて奇遇ですねー」
「テレン?」
いつきと親しげに声を交わした青年は首を傾げた敦史に小さく会釈をした。
「うん、外国語の授業一緒にとってるんだ。本名は……飛立錬(ひだて れん)だったよね」
「はい、それで最後の三文字を取って『てれん』です。ローマの詩人にテレンティウスって人がいて、その人の名前をいただいてるような、そんな感じで」
「へぇ」
細められた目が優しい印象の青年の説明に、ぼんやりと敦史が相槌を打つ。
「『人生はすごろく遊びのごときものにして、熱望せしサイコロの目が出ずとも、偶然の出せしものを技術によりて修正せば可なり』……だな」
彼らの会話を聞いていた店主が、この時初めて敦史に聞こえる声を発した。話の流れからするに、テレンティウスという人物の言葉でも語ったのだろう。
「あ、ライノさんお待たせしました! 卵がコンビニに見当たらなくてスーパーへ行ってて、遅くなりました」
テレンが手にした買い物袋を店主に差し出す。彼の様子を見やりながら、もう一人店の中に入ってきた人物がぽつりと呟いた。
「本当にお人よしだな。行き着けの店とは言え、使いっぱしりを引き受けてるなんて」
「……あれ?」
短く刈った髪が頭の上で僅かに立っている、その青年の顔に敦史は見覚えがあった。何度か大学の中で見かけた事があるような。
「ごめんね、和久さん。ちょっと待ってて」
テレンが声をかけているという事は多分大学の人物で間違いないだろう。そう考えていた敦史の横で、いつきが声を上げた。
「ねえ、ひょっとして、大学で時々ギター弾いてない?」
「……ああ」
いつきに対して返された青年の返事に、ああそうかと敦史も頷いた。比較的遅くなった時間、人気のない学食ホール前で時々アコースティックギターの音色と歌声とが聞こえる事がある。人目を気にせず歌い続けていた人物こそ、テレンが連れて来た青年その人だったようだ。いつきも彼は歌っているのは見た事があるらしい。
「和久さん、いい声してますからねー。みんなの印象に残ってるんですね」
「ん。なんだ、お前ら全員案砂大の連中か」
「どうやらその顔ぶれが集まったようです」
敦史達の会話を聞いていたのだろう無精髭の店主がテレンに尋ね、言葉を続けようとした。
「ふーん。じゃああれだな、お前らは……」
「大学の後輩にあたる、そうですね? 案砂大クイズ研究会元名誉会長、来野(きの)さん」
狭い店内に響いた声に全員が店の入り口を見ると、そこには黒いスーツにサングラスという出で立ちの若い女性が立っていた。